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石綿肺がんの誤認定について穴水労働基準監督署が謝罪/建設用安全ネットの補修、整備の作業で石綿肺がんを発症(2017年7月)
2024.04.30|相談事例
Hさんのお母さんのSさん(1937年4月16日生まれ)は、1970年4月から1997年4月まで珠洲市にあったK社の能登第一工場でアスベストが付着していた建設用安全ネットの仕立て、補修、整備の作業に従事していました。作業の流れは、運び込まれたネットについている「ほこり」や「番線」等を取り除き、水で洗浄した後に乾かし、工場内で補修するというもので、汚れの少ない物は、洗浄せずに工場内で補修作業を行いました。工場内は粉じんが舞っており、作業終了後には作業着等が汚れ、作業中のマスクの着用はありませんでした。
Sさんは2012年6月18日に肺がんを発症しました。Hさんは石綿ばく露が原因だと考え2014年に富山市で初めて行われたアスベスト相談会で、サチ子さんの石綿肺がんの労災請求(申請)について相談し、関西労働者安全センターの支援を受け穴水労働基準監督署に労災請求を行いました。当初、監督署の調査でSさんの事案は、石綿ばく露によってのみ肺に発生するプラーク(胸膜肥厚斑)については、胸部エックス線写真により明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によっても広範囲に確認出来るとされましたが、石綿ばく露作業への従事期間1年についての判断が監督署で出来なかった為、厚生労働本省での協議が必要でした。しかし、監督署は本省協議に送ることなく「石綿ばく露作業を裏付ける客観的根拠が認められない」として2015年6月8日に不支給処分としました。Hさんと患者と家族の会は厚労省に対し抗議するとともに国会議員を通じて本省協議の実施を要求し、2015年8月31日に本省協議に伴う追加調査指示が監督署にされ、2016年2月26日の本省協議の結果、3月10日にSさんの肺がんの労災を認める「石綿が付着していた可能性が認められるネットの補修の業務に1年以上従事していることと広範囲の胸膜プラークが画像上確認できる」との回答が行われ、3月14日に労災認定されました。
石綿肺がんの認定基準では、胸部エックス線写真により明らかな胸膜プラークの陰影が認められ、かつ、胸部CT画像によっても当該陰影が胸膜プラークと確認出来る所見や、胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上の所見が得られるにもかかわらず、石綿ばく露作業への従事期間が 1 年に満たないものについては本省協議することが定められていますが、この事案では最初の調査で監督署や労働局がこの認定基準を無視したことが問題でした。
この事案について富山アスベスト相談会に先立って行った今年5月23日の記者会見で発表したところ毎日新聞と中日新聞が大きく報道しました。このことをきっかけにSさんの娘のHさんは穴水労働基準監督署に謝罪を求め、7月3日に行われたHさんと石川労働局、穴水労働基準監督署との話し合いの席で、穴水労働基準監督署は支給まで長時間かかり申し訳なかったと謝罪しました。Hさんは、「話し合いで穴水労働基準監督署の労災課長が本省協議をしなければならない事案と考えていたにもかかわらず、上(石川労働局)でつぶされた事が分かりました。行政の闇のようなものを感じます。今回は不服審査等をして事案が明るみに出ましたが泣いている人も多いのではと思います。今回の活動によってこういうことを是正させることが出来れば良いと思います」と筆者に話してくれました。