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審査請求で第14級の障害等級が第12級に変更/ブラジル人労働者の開放骨折労災で愛知労働局が半田労働基準監督署の決定を取り消し(2021年12月)

2025.06.10相談事例


今年10月27日、愛知労働者災害補償審査官は、半田労働基準監督署がOさんの左脛骨腓骨開放骨折後の後遺障害について障害等級第14級とした決定を取り消し、第12級とする決定を行いました。

製品選別台の下敷きになる労災事故

ブラジル出身のOさん(53歳)は、2019年2月11日の午後3時ごろ、所属していた製造請負会社から派遣された工場での作業中、倒れてきた500kgか600kg程の重さの自動車部品を載せたシューター(製品選別台)の下敷きに左下腿(左足のひざから足首までの部分)がなり、左脛骨腓骨開放骨折(ひだりけいこつひこつかいほうこっせつ)の大けがを負いました。

倒れてきたシューターは、Oさんがクレーンを操作して回転バレルという処理治具から積んだ、トラックの座席部分に使用されるスプリングを満載していました。事故前、Oさんは、シューターに積んだスプリングを選別し、箱に詰める作業を行おうとしていました。

シューターが転倒した原因は、前日に工場の係長がシューターの後脚についていた車輪2つを交換したことにより、後脚が前脚2本より長くなり、バランスが悪く、倒れやすい状態になっていたからでした。スプリングを載せたシューターが突然倒れてきた時、Oさんは両手でシューターを支えようとしましたが、シューターの重みで転倒し左下腿が下敷きになりました。

事故直後のことについてOさんは、「救急車が来るまで40分くらいかかった。痛みがすごく、体全体の色が真っ黒になっていった。最初に薬を飲むまで7時間ずっと我慢していた」と証言しています。

3回の手術と大変な療養生活

事故後、Oさんは市立半田病院に救急搬送され、創外固定や創部の皮膚欠損に対する軟膏処置等の医療を受けました。また事故から2週間後の2月25日にはさらに骨接合術が行われました。手術はそれぞれ4時間程かかりました。大変だったのは10月8日に行われた8時間におよんだ3回目の手術でした。骨折部に入れていた金属を除去したりする手術でしたが、4時間経過した頃から麻酔が効かなくなり、大変な痛みに耐えなければいけませんでした。医師に痛みを訴えましたが、我慢してと言われました。事故直後の入院生活は38日間におよび、3回目の手術後の入院期間は23日間におよんだことから、Oさんは長期の入院生活を送らなければなりませんでした。

創外固定術は、手術で骨析をつなげられない粉砕骨折や,骨折部が感染しやすく直接に手術できない開放骨折、骨祈の固定がしにくい関節部の骨析等に用いられる術式で、全身または局所麻酔施行のうえ,骨片にワイヤーやピンを体外から刺入して固定し、それらの支えとなる金属の支柱である創外固定器を装着させて長期にわたり骨を癒合させる治療方法です。外に創外固定器が露出しますが、術後すぐにリハビリが開始できるうえ、感染創の治療に適しているなどの利点があります。

骨接合術は観血的整復固定術ともいわれ、金属製のプレート、スクリュー、ピン、髄内釘やネジなどを用いて⾻折部を直接固定させます。骨折部位が骨融合したあとは、これらの固定材は摘出されることが多いです。

リハビリは自宅近くの日比野整形外科で歩行訓練や足のマッサージ、電気を使ったリハビリなどが行われましたが、一番辛かったのは歩行訓練で、腰や足の痛みに耐えなければなりませんでした。

Oさんはリハビリを続け、治療の継続を希望していましたが、手術をしてくれた半田病院の医師が退職し、新しく赴任した医師に代わったとたん、これ以上のことはもうできないと言われ症状固定とされることになり、2020年11月17日に終診となりました。被災から1年9か月が経過していました。

半田労働基準監督署の誤った障害等級決定

半田病院の医師診断書を添付し、半田労働基準監督署に障害補償給付の請求を行ったところ、2021年1月7日付けで障害等級第14級の9、「局部に神経症状を残すもの」の決定を受けました。労災による負傷が症状固定したり、治癒した時に、身体に一定の障害が残った場合には、その障害の程度に応じて、障害等級が労働基準監督署によって決定され、障害補償給付の支給を受けることが出来ますが、第14級の障害等級は第1級からある障害等級の中で給付金額が一番低くなる等級です。Oさんには、左足首が曲げられず、しゃがむことが出来なかったり、少し歩いただけで左足が腫れて強い痛みがでるなどの障害が残っていました。Oさんは、第14級の9の障害等級決定を不服として、2月15日付けで愛知労働局の労働者災害補償保険審査官に審査請求をしました。

愛知労働局へ審査請求と原処分の取り消し決定

審査請求に際し、Oさんが加入している労働組合、ユニオンみえの専従者、遠藤カルロスさんは、「左足首が曲がらないことをしっかり審査官にアピールして」というアドバイスをしました。大杉さんは、遠藤さんからのアドバイス通り、審査請求の手続きが始まり、愛知労働局の労働者災害補償保険審査官との面談が行われた時に自身の左足首の関節がしっかり曲がらないことを訴えました。Oさんのアピールが功を奏し、審査請求では鑑定医による対診が行われました。

愛知労働局の労働者災害補償保険審査官は、今年10月27日付けで半田労働基準監督署がOさんに対して決定した第14級の9の障害等級を取り消し、第12級の7、「1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すものに認められる」との決定を下しました。原処分が取り消され、障害等級を第14級から第12級に繰り上げる変更の決定が行なわれたのです。

審査請求において原処分が取り消された理由は、審査請求時の愛知労働局の鑑定医が、改めてOさんの足首の関節運動範囲(可動域)の測定を行い、左足首の関節が背屈(足首を甲側に曲げること)できない状態であることを確認したことと、Oさんの左足の脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)が遠位1/4(足首の少し上)で骨性癒合しており、左足首の関節の背屈を妨げている状態になっていることをX線写真で確認したからでした。Oさんの左足関節の機能障害が認められたのです。

今年3月にユニオンみえで筆者がOさんとお会いした時は、500メートル程歩いただけで、指から骨が折れたところまでビリビリと感じ痺れるのと同時に、熱くなるのを感じることや、指から骨が折れたところまで赤く腫れ、刃物で刺されるような痛みを感じること、500メートル程歩き、しびれや痛みの症状が出現し始めてすぐに歩くのを止めた時は2時間程で症状がなくなりもとに戻るけれど、買い物に行きたくさん歩いた後は、500メートル歩いてすぐに止めた時以上の、さらに強くなった刃物で刺されるような痛みを骨が折れたところに長時間感じること、夜に痛みが出現すると、一晩中痛く、眠ることが出来ないことなど、後遺障害に苦労していることを話してくれました。

コロナ禍で簡略化された障害認定手続きの問題

Oさんのケースで問題であったのは、半田労働基準監督署がOさんの第14級の障害等級を決定する時に、労働局協力医によるX線写真の確認や、足首関節の可動域の測定を行わなかったことでした。これらの手順が無かったために、Oさんの左足首関節の機能障害の見落としが発生しました。

新型コロナウイルスのパンデミックが始まる前、整形外科領域の障害等級の決定を行う時は、決定前に監督署で労働局協力医による対診による判定が行われていました。それが、現在では感染防止のため省略されています。筆者が11月15日に電話で、現在の障害等級認定の手続き方法について半田労働基準監督署労災課に問い合わせたところ、対応してくれた女性職員より、「コロナ感染防止のため、現在では障害等級決定の手続きを簡略化しており、主治医の診断書に基づいて障害等級の決定を行っている」という答えが返ってきました。そして、筆者がOさんのケースについて、第14級の障害等級決定前にX線写真を労働局協力医に見せたかと聞いたところ、「見せていない。現在はそこまで行っていない。齟齬がない限り主治医の診断書に基づいて障害等級を決定している」という答えが返ってきました。

審査請求の決定書を見ると、次ページの表1のようなことが分かりました。Oさんの手術をした半田病院の医師は、Oさんの左足首関節の背屈について0度で曲がらないと認識しており、2020年9月14日付け診断書に記入していましたし、リハビリに通っていた日比野整形外科の医師もOさんの左足首関節の背屈について0度と2020年9月3日付け診断書に記入していました。前述した通り、審査請求時の労働局鑑定医もOさんの左足首関節の背屈については0度の測定をし、今年9月22日付け鑑定書で報告しています。なぜか、最初にOさんの手術を担当した半田病院の医師が退職した後の後任の医師が記入し半田労働基準監督署に提出した、障害等級認定のための2020年11月24付け診断書のみ、左足首関節の背屈について20度と記入され異常なしとされていました。

半田労働基準監督署がOさんに対して誤った障害等級第14級の決定を行った原因は、左足首の背屈の可動域制限について記入していない半田病院の主治医診断書に基づいて決定が行なわれたからでした。悪いことに、Oさんが障害認定を受けた時期はコロナ禍で、障害認定の手続きが簡略化され、労働局協力医によるX線写真の確認や対診による可動域の測定が行われていませんでした。今回、Oさんのケースから分かったのは、コロナ禍を理由とした簡略化された障害等級認定手続きでは見落としや誤認定が発生するということです。

Oさんは、審査請求における原処分の取り消し決定処分を受け、「最初にもっとちゃんと調べて欲しかった」と筆者にコメントしています。