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労災隠しにあったトルコ人解体作業員(2016年9月)

2024.04.26相談事例

トルコ人男性のマハメットさんは2016年2月名古屋市千種区の住宅解体現場の足場から転落し、胸椎圧迫骨折、頚椎・胸椎棘突起骨折の大けがをおいました。現場での転落事故発生時、すぐに119番通報は行われず30分以上、現場に放置されました。最終的に名古屋第二赤十字病院に救急搬送され、手術を受けることになりました。3月に入り他院に転院し入院生活は5月下旬まで続きました。名古屋第二赤十字病院などから高額な医療費の請求をされたため、事務所に日本語が堪能な同僚とともに相談に訪れたのが6月初旬でしたが、背中に激しい疼痛を感じていました。マハメットさんは2015年に難民申請を行い、特定活動の在留資格を得て働いていました。母国、トルコでも大工として建設現場で働いていました。

マハメットさんが勤めていた中川区にある解体工事会社は、日本人を妻に持つトルコ人が経営していました。建設現場で労災事故が起きた場合は、元請けの労災保険を使わなければならないので、マハメットさんから相談を受けた成田が早速、トルコ人経営者に「労災保険の申請をしたいので元請けを教えてほしい」と電話したところ、「元請けは知らないけれど、仕事を紹介してくれた日本人は知っている」と言って、日本人建設業者の名前と電話番号を伝えてきました。日本人建設業者に電話をしたところ、「私も元請けを知らない。解体工事を紹介してくれた業者からの支払いがなくトラブルになっており、携帯電話にもつながらない」と意味不明なことを言い、のらりくらりと逃げるばかりでした。

元請けを逃がすのは悔しいので、解体工事現場だった場所に直接行ってみました。何か手掛かりがあるかもしれないと考えたからでした。現場に行ってみると、大手ハウスメーカーが個人宅の新築工事をしていました。ここに以前住んでいた住人は土地を現在の持ち主に売却するため、自宅の解体を行いました。大手ハウスメーカーの名古屋支店に電話をして、前の土地・建物の持ち主が自宅の解体を依頼した元請け業者を知らないか問い合わせてみましたが、大手ハウスメーカーの営業、現場監督とも前の住人がどこの元請け業者に解体工事を依頼したか知らないと言うことでした。結局、事故が起きた現場の土地、建物の登記に前の住人の埼玉県内の転居先が記載されていたので、前の住人に解体工事を依頼した業者を訊ねる手紙を丁寧にしたため、切手を貼った返信用封筒を同封して郵送しましたが、前の住人から返事をもらうことは出来ませんでした。結局、このケースは元請け業者不明でマハメットさんが勤めていた解体工事会社がある中川区を管轄する名古屋南労働基準監督署に労災保険請求(申請)を行うしかありませんでした。

東海在日外国人支援ネットワークと名古屋入国管理局との意見交換会を2012年より毎年行っており、難民認定申請者数の総数(移管受理を含む)及び出身国別上位5位までの内訳数も聞いていました。名古屋入管によると2011年は38人のトルコ人が難民申請を行い、2012年は159人、2013年は254人、2014年は349人、2015年1月から8月までは227人のトルコ人が難民申請を行ったとのことで、年々トルコ人の難民申請者が増えているのが分かりました。

私が最初にトルコ人解体作業員の相談を受けたのは2010年10月でした。小牧市の現場でパワーシャベルのアームの先端のアタッチメントを変える時に、指がアタッチメントを装着する穴に巻き込まれ切断したが労災保険申請をしてくれないという相談内容で、労災認定、障害補償給付の請求まで支援しました。この相談の後、トルコ人コミュニティーの間で団体が有名になったらしく、現在まで途切れることなく、労災に遭ったトルコ人解体作業員達が団体事務所を訪れています。このような経験から、トルコ人難民申請者の多くが解体工事業に従事しているのが分かったのですが、これまで私が受けたトルコ人たちの解体工事現場での労災相談は、先に紹介した指の切断の他、屋根からの転落、崩壊建物の下敷きになる事故や旋回するパワーシャベルのバケットとの衝突など下手をすると死亡事故に発展してしまうようなものばかりでした。そして、多くの者は労災事故が起きても、労災保険の申請をさせてもらえず、解体工事業者の社長が医療費を立て替えたりしている事が多くありました。労災に遭い、団体の支援を受けて労災保険で治療を受けた後、自ら住宅解体工事会社を興したトルコ人もいました。解体工事業界で労災隠しが横行していても、トルコ人にとってはこの仕事でしか名古屋では食べていけないからでした。名古屋の解体工事業はトルコ人が支えており、これからも現在のような状況が続くことが予想されます。あわせて、アスベスト使用原則禁止になった、2004年の前に建てられた住宅に使用された建材に含まれているアスベストばく露によるトルコ人解体作業員たちの将来の健康被害も心配です。彼らが母国に帰国後、アスベストがんである「中皮腫」などを発症した場合、どうやって在職証明を取り、日本の労災保険の請求をしたらよいのでしょうか?元請けのハウスメーカー、建設会社等には労災隠しをしない下請け管理を徹底すべきだと言いたいところですが、元請け業者達に何を言っても寝耳に水の状況が昔から続いています。